事業再生の現場から

賃上げに挑む経営者たち①

円安・買い負けで穀物・エネルギー等「戦略物資」の値上げが続き、労働者の可処分所得が大きく目減りしたこの1年ですが、食料品や電気・ガス料の値上げは、未だ続きそうな気配が漂っています。

物価の値上がりに労働者の「賃上げ」は待った無しの状況で、上場企業等の大手企業は早々に組合側からの賃上げ要請を応諾し、久し振りの「大幅ベースアップ」で労使妥結したとのニュースも続きました。

加えて新入社員の初任給も10%以上引き上げする企業が続出する等、少子化の中で「優秀な労働力」確保を目指した動きも拡がって来ています。

あるマスコミの調査では、中小企業経営者の6割が「今年は賃上げを実施したい」と考えているという事で、中小・大手の区別なく、経営者は従業員の給与アップに対する関心が高い事が分かります。

 

先日取引先A社との役員ミーティングの中でも、「賃上げ」をどうするかという話になりました。

A社は3月決算の会社なので、現在決算に向けて各勘定の締め上げを進めていますが、2月末試算表段階で2,000万円を超える営業赤字を計上しています。

3月は1,000万円近く単月黒字となったので、多少損益は盛り返しましたが、それでも決算では営業損益段階で赤字計上が予想され、となると最終利益もほぼ間違いなく赤字となりそうです。

金属加工業を本業とするA社は、昨年2回に分けて材料費の値上げを受け入れましたが、製品価格への転嫁の遅れ(と言っても下請けの立場では販売先への交渉力が弱いのは世の常で…)が前述赤字の要因となってしまっています。

何しろ原価の40%を占める材料費が1年間で46%も値上がりしたのです。

材料費の値上げを受け入れざるを得なくなった時から、外部コンサルとして「口を酸っぱくして」販売単価への転嫁交渉を…求めて来ましたが、値上げを認めて貰えたのが決算3か月前…、前期大半の期間は、材料費値上げ分をA社が被る結果となったのでした。

それでもA社長は言います。

「12月納品分から値上げを認めてくれたので、2月は月間300万円の利益がでました。4月以降も値上げ効果で月間利益は500万円くらい見込める。赤字は痛かったが、社員の生活も諸物価値上げでキビシイと思うので、多少給与も引き上げてあげたい」

この会社は月間1,300万円の人件費を負担しているので、平均5%上げちゃうと社保料共々100万円近くのコスト増になる見込み。

 

会社を経営していると想定外の支出や負担が発生する事もあり、手元資金(運転資金)はある程度残しておきたいものですが、人件費のような「固定費」を簡単に上げてしまうと、後々後悔する事にもなり兼ねません。

従業員のモチベーションと生産性の相関関係は間違いなくあるのですが、債務超過寸前まで追い込まれているA社なので心配です。

この心配が杞憂で終わるくらい4月以降も好受注が続けば良いのですが、こればかりは神のみぞ知る…ですかね。

とにかく中小企業経営者は、いずこも大変です。



コメント

※コメントは承認制となっております。承認されるまで表示されませんのでご了承ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です